東京高等裁判所 昭和35年(ネ)475号 判決 1963年9月23日
控訴人 梅田豊明
被控訴人 氷川神社
主文
本件控訴を却下する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は原判決をとりけす、本件を東京地方裁判所へさし戻す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との旨の判決、および予備的に、原判決をとりけす、被控訴人は控訴人にたいし金一二万八、七〇〇円を支払うべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張はつぎのとおりおぎなうほか、原判決事実らんにしるすとおりであるから、ここにこれを引用する。
(被控訴人の主張する事実)
一、控訴人は本訴が昭和三二年(ワ)第七、九二六号事件として東京地方裁判所民事第一〇部に係属中同裁判所にたいし昭和三五年二月一一日付で取下書を提出したから、本件控訴は失当である。
二、控訴人は被控訴人を相手どり本訴とは別に、いずれも東京地方裁判所にたいし昭和三五年二月一〇日付で同庁昭和三五年(ワ)第二、〇一六号、昭和三五年二月二五日付で同庁昭和三五年(ワ)第一、四八五号各損害賠償請求事件を提起し、みぎ各事件と本訴とはその請求原因が重複するので、本訴は棄却さるべきである。
(証拠関係)<省略>
理由
職権をもつて調査するに、記録に徴すれば、本件訴訟(東京地方裁判所昭和三二年(ワ)第七九二六号事件)は原告を氷川神社(本件被控訴人)被告を梅田豊明(本件控訴人)外六名とする同庁昭和三〇年(ワ)第六〇二五号建物明渡請求事件の反訴として梅田豊明から提起せられたものであるが、本訴であるみぎ昭和三〇年(ワ)第六〇二五号事件は昭和三二年一〇月二四日午前一〇時の準備手続期日において原告である氷川神社が請求を放棄して終了し、その後みぎ反訴のみが同裁判所に係属していたところ控訴人において昭和三五年二月一一日付の取下書を同月一五日同裁判所に提出し、被控訴人においてその取下の同意がないまま同月一五日午後一時反訴原告敗訴の原判決の言渡があつたこと明らかである。ところで民訴法第二四一条には本訴の取下があつたときは被告は原告の同意を要せずして反訴を取下げることができる旨規定しているが、これは反訴というものは、そもそも本訴が提起せられたことを機縁としてこれに対抗するため提起せられたものであるからいやしくも本訴が原告の一方的行為である取下により終了した以上当該反訴の取下に原告の同意を要するとするようなことは相当でないと認めたからにほかならないからである。訴の取下と請求の放棄はその効果において異なるところがあるにしても、同じく原告の一方的行為により訴訟を終了せしめるという点においてはまつたく同じであるから、いやしくも請求の放棄がなされた以上民訴法第二四一条を準用し、被告の反訴についても原告の同意を要せずしてその取下をすることができるものと解するのを相当とする。したがつて前記訴訟の反訴である本件訴訟は前記取下書が提出せられた昭和三五年三月一五日終了したのであるから、前記判決に対する本件控訴は不適法である。よつてこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用し主文のとおり判決した。
(裁判官 牧野威夫 満田文彦 浅賀栄)